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2024/04/23 15:46 |
From元やん ⇒500hitキリリク









「あれ?先生、こんなところでどうかしましたか?」









それは、とある雨の日だった。











塾の近くの時計台の前で、傘もささずに突っ立っていた僕を、現実の世界に引き戻したのは、
確か、この塾の塾生の



―――パンパさんだった。



パンパさんは、右手にコンビニの袋を提げ、左手に澄んだ水色の傘を持っていた。


「・・・君こそ、こんなところでどうしたの?」


いくら塾に近いといっても、塾生が来るような方向にある公園じゃないし、
来るとしても、何のメリットもない公園だった。



「いえ、そんな大した用ではありませんが・・・。」




本当にこの塾の生徒だろうかと思うような礼儀正しい生徒。

普段、「先生」なんてつけて呼んでもらえないあげたまごとしては、なんだかくすぐったかった。





パンパは、僕の隣まで歩いてきて、時計台を見上げた。



「此処は思い出の場所なんです。」




此処に通うのが日課なんです。




パンパさんはそう言って傘を半分僕の方に傾けてくれた。



「ずぶ濡れになったら風邪をひきますよ?」


「うん。そうだね。塾に戻ろうか。」




なんて優しい生徒だろうか。

普段相手してる奴等とは大違いだ。




僕は、パンパさんと、傍から見れば相合傘になるような格好で、塾に戻った。





塾に戻ってパンパさんと別れた後、講師控室に僕は向かった。




―――どうせ、これだけびしょ濡れじゃあ歓迎されないのは目に見えてるけど






控室に入るなりなんなり、パディ先生あたりに


「うっわーびちょびちょなんだよー!!部屋に入らないでよー!!」



などと言われるに違いない。

追い出されるの覚悟で、僕は講師控室に入った。



結果は予想通りで。


「うっわーびちょびちょなんだよー!!こっち来ないでー!!」




・・・流石に部屋に入らないでよーはないか。


上に羽織っていた背広を脱いで、その場で絞る。

絞られて床に落ちた水が次第に小さな水溜りとなった。



「ちょ、あげたまご!!それあとでふいといてねー!!?」



パディ先生に叱られる。

それを半ば無視して、僕は自分の為に用意されているデスクについた。




「あ、ねえねえそういえばパディせんせ。」



先程のパンパさんのことが少しだけ気になって、僕は聞いてみた。



「そういえばパディ先生ってパンパさんのクラス持ってましたよね?」



パディは、自分のデスクに乗っているコーヒーに口をつけて頷いた。


「そーだよー?それがどうしたのー??」


「いえ、特に大したことではないですけど。優しい子だなぁって。」



「えーあげたまごってば・・・ロリコン?」



・・・パディ先生に何か誤解されてしまった。

いやいや!恋愛感情とかじゃないからさ!!!



「違いますって!!そんなんじゃなくて!!!
此処の塾生にしてはまともだなって思っただけです!!」


パディ先生は、普段より2割増しぐらいニヤニヤして、


「どうだか~?」


とからかって来た。



するとその途端に、普段ではあり得ない真面目な顔をして、


「あの子はちょっと過去に色々あってさ。」



と苦笑いとも同情とも掴めないような顔をした。




僕は、パディ先生の意味深な言葉が気になった。


が、次のコマは僕の教科じゃないか!と思い至って、渋々席を立った。




その授業が終わるころには、僕はパンパさんのことを忘れていた。







数日後、僕はまた、例の時計台まで行ってみた。

この前と同じ時間。




―――パンパさんは、そこに居た。





「パンパさ・・・」

僕はパンパさんを呼ぼうとした声を喉でつっかけた。



パンパさんは、目を閉じ、両手を合わせて、立っていた。


まるで、黙祷でも行っているように。



いや、まるでというか、黙祷なのだろうが。






僕はパンパさんを黙って見ていた。



声をかけるタイミングを逃してしまったのだ。







黙ってそこに立っていると、不意に、パンパさんがこっちを振り返った。

帰ろうとしたんだろう。



しまった、と思ったときにはもう遅く、僕はパンパさんとバッチリ目を合わせてしまっていた。



「あれ?先生、こんなところでどうかしましたか?」



この前とまるっきり同じ態度。

でも違う。

何か、隠していた大事なものを見られた時のような顔を、パンパさんはしていた。



「あの、いや、その・・・!!」



格好悪いぐらいにしどろもどろになっている僕を見て、パンパさんは眼鏡の奥に微笑みを見せた。





「この時計台は、父が私の為に、といって作ってくれたんですよ。」



パンパさんは、時計台を振り返って、言った。




「まだどこか真新しいでしょう?大工だった私の父が、
幼い私の為に作ってくれた、父の最初で最後のプレゼントです。」



独り言のように、でも僕に語りかけてくるような声でパンパさんは話す。


「最後って・・・」


僕は呟いた後、意味を理解してしまった。

言ってしまったものは無くならない。



「御察しの通りです。父はもう亡くなりました。
この時計台を完成させた日、最後の点検で時計台に登り・・・
ほら、あそこに小さな窓があるでしょう?
あそこから落ちて亡くなったんです。」


私へのプレゼントを作ってくれたことで、父が死んでしまうなんて、神様も意地悪ですね。



自嘲気味に呟く。



涙はない。



「・・・お悔み申し上げます・・・」



なんとまあ、場違いな言葉だっただろう。

僕のちっぽけな頭では、この言葉が限界だった。



「すいません。暗い話になってしまって。じゃあ私は次のコマがあるので・・・」



そういって、パンパさんは塾の方向へ歩いていった。


僕は、時計台に近づいていって、それを見上げる。



パンパさんの心の傷か・・・。



パディ先生のあの意味深な表情の意味が少しだけ理解できた気がした。










パンパさんの話を聞いた日から、僕は時々あの時計台に通うようになっていた。


パンパさんと鉢合わせることはほとんどないけれど。




なんだか人の領域に踏み込んでいるようでいい気はしなかったけれど、
僕は何故か、この時計台に惹かれていた。


子供の為に作った時計台か・・・。


粋なお父さんだなー・・・。



時計台の前で黙祷する。
これも来る度にやっていること。


黙祷を終えて、目を開けると、なんと隣にパディ先生が立っていた。


「な、えちょ、パディ先生!!?どうして此処にってかいつの間に!?」


果てしなく動揺する。


「ふふふ・・・パディさんは実は魔女なのだよ!!

ってのは冗談でだね!」


そんなの冗談じゃなかったら困るから!



「なんかパンパの話に流されて、ちょくちょくこの時計台に足を運んでたからさ、
真実を教えてあげようと思って参上したんだよーん!」


「真実・・・?」



「そう!実はあの話・・・



全部嘘だよ。」



・・・は?

何だって!?



「う・・・そ?」

「うん!だってパンパの父さんはまだ健在だし、この時計台だって何十年も前から建ってるもん。」



ええ!?嘘だと!?

何で!?僕騙されたの!?


「そ、君騙されたの。パンパの巧みな芸によってぇ~」


えへへへへとパディ先生は笑う。



「そんなぁ・・・」


パンパはそんなことする子じゃないって思ってたのに・・・



「まあ此処の塾にいるんだもん。しょうがないよねー!!」


さ、帰った帰った!!


強引にパディ先生に背中を押されて、僕は塾に戻った。



「僕って・・・僕って・・・」



自分で聞いても虚しく聞こえる声が、小さな空に木霊した。



~~~

「パディ先生、ありがとうございました。」


どこに隠れていたのか、パンパがパディの前に現れた。

あげたまごが帰った後、時計台の前。



「いーえーだって情に流されて先生なんかに此処に通われたらいい気分じゃないもんねー!!」



パンパは、困ったような笑顔を作った。


「そんな・・・あげたまご先生に失礼ですけど・・・でもやっぱり、此処は私の場所なんです。
父親が私にくれた場所だから・・・」


一生懸命言葉を紡ぐパンパを片手で制して、パディは笑った。









「大切な人を失った悲しみぐらいは知ってるよーん」





パディは、にやにや顔に戻って、パンパを見つめた。


「もうあげたまごは此処に来ないようにするからねー!安心していいよー!」



パンパは、にやにやするパディを眺めて、


「ありがとうございます。」


と笑ったのだった。




~~~

「お父さん、このプレゼント、一生大事にするからね。」


今、大きな空が笑った気がした―――



end
>>アトガキ

あげたまごキリリク、花薊物語短編でしたー。

短くないけど。



パンパとか、本編に出せるかどうか瀬戸際のキャラで書こうかと思い至りまして。

これ書き上げるの1時間もかかってないです。

すごいね自分。



結局最後あげ可哀想な結末で無駄にパディがカッコいいけど、まあ気にしないで。


かっこよく書いてなんて言われてないから(爆。



あげたまごはお持ち帰り可です。
返品も可です。



でわでわ。。




そんなわけで、浅葱詩歌の500番踏んできました。

なんていうか、感動モノなんでしょうね、これ。

まあかっこよく書いてほしかったなんて言わないけれど



ていうか、パディ、かっこよすぎです。

パンパ、愛されすぎです。

僕、・・・うん、登場できてよかったです。

なんつーか、

(いい意味で)鳥肌立ちました。

ほ、ほんとだかんね



では、これからもサイト運営頑張って下さい!

ってことで!
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2007/09/06 19:53 | Comments(0) | TrackBack() | 貰い物

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