こんなこと、初めてなんだって。
「王子?」
がちゃり、と、鉄製の扉が開く音がしてから、パンパの声が聞こえた。
迎えに来てくれたのだろうか。でも今は、まだ戻りたくない。
「どうされたんですか?
こんなところにずっといたら、風邪ひきますよ」
空を見上げれば、そこに真ん丸い月が見える。
ああ、もうこんな時間なのか。
「すまないパンパ、飯ならいらない」
「・・・王子・・・」
あの日から、既に2日が経っていた。
流石のパンパも、私の変わりように驚いているのだろうか。
私が振り返ると、パンパは、
「・・・久しぶりだな、そんな顔」
私の元に仕え始めたときのような、氷のように冷たい顔をしていた。
「そりゃあそうですよ。
”あの時”貴方が言ったんじゃないですか」
「ああ、・・・そうだったな」
私は、記憶の彼方に飛びかけていた、”あの時”の出来事を思い出した。
懐かしくて思わず顔がほころんだけど、その拍子に涙が零れそうだったから、また口を結ぶ。
「・・・何か、あったんですか?」
「―――失恋したよ!」
あはは、と、できるだけ明るく、大きく笑う。
そうでもしないと、涙の重さに押し潰されそうだったから。
「人生で初めての失恋さ!
参ったよ!まさか私が振られるだなんてね!
なのに、『また会いに来なさい』だなんて言うんだ!
生殺しだよ、全く」
「・・・王子、無理してるでしょう?」
「結構ね」
もう、隠しても無駄だと思ったから、言ってやった。
こんなこと、初めてなんだ。
城で使った国語の教材にも、こんな心情、載ってなかった。
なあパンパ、私はどうすればいい?
―――息苦しくて、死にそうだ
「全く・・・いつまでもウジウジしているだなんて、貴方らしくもない。
さっさと泣いて、さっさと会いに行ってきたらどうですか」
私の胸中を察したのか、それだけ言うと、パンパは再び城に戻っていった。
「―――さあ、」
さっさと泣いて、あの子に会いに行こう。
・・・なんとなく手を仰いだら、蒼白い手と真白い月が、重なった。
本編ラストに入れる予定だった話。
・・・のため、少し短め。
まあ多少編集しましたけどね!
王子の失恋話。
エピローグで3日飛んだ理由話みたいな。
ただの王子の女々しい話みたいな。
表現がくさかったり、その他諸々全部王子だからで済ませる予定です。(
”あの時”の話はまたいずれか。
多分構想が一番しっかりしてる話です。あの時、のがね。
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あの時って、気になるな、もう。
伏線だけで終わったら、呪っちゃうもんね(・∀・)